細胞年齢は完全にリセットできるということだ。それをいつかは人間も、しかも自分たちの 知恵や記憶や魂を失うことなくできるようになると、私は信じて疑わない。
デビッド・A・シンクレア
デビッド・シンクレア著「Lifespan」を読んで衝撃を受けたのでまとめておこうと思います。(読んだのはだいぶ前ですが笑)
この本のおかげで130歳以上になるという目標が持て、このブログも開設できました。老化研究について色々な希望が持てる一冊でした。
老化研究が進み老化の停止や若返りができるようになった時に、その技術が適応できる若々しい体である必要があるため、 日々健康に過ごすことのモチベーションになっています。
以下、「Lifespan」について、面白い部分やエビデンスのある部分を紹介します。
NMNやNRなどの老化制御が期待されている物質がなぜ期待されているか、その機序等もまとめました。
老化の原因
著者のデビッド・シンクレアが考える老化の流れは以下の通りです。
- DNAの損傷によってゲノムが不安定になる
- DNAの巻きつきと遺伝子調節(つまりエピゲノム)の混乱
- 遺伝子スイッチのオンオフを調節するエピゲノムが変化する
- タンパク質の正常な働きが失われる
- 細胞のアイデンティティの喪失
- 細胞の老化
- 病気
- 死
サーチュイン遺伝子
長寿遺伝子と呼ばれている。
エピジェネエックスの調整をする。
酵母からヒトまで存在し、ヒトには7種類ある。
サーチュインが老化制御する仕組み
酵母のサーチュイン
SIR2遺伝子からSir2酵素が発現する。
(大文字のイタリック体の場合は遺伝子、大文字と小文字の場合はその遺伝子から発現したタンパク質(酵素等)の意味)
(SIRはサーチュイン遺伝子のこと)
ヒストンにアセチル基が蓄積するとDNAとの巻き付けが緩くなり、遺伝子が発現しやすくなる。
Sir2酵素はそのアセチル基をせっせと外し、DNAとヒストンの巻きつきを強くする。
⇒Sir2酵素はヒストンが巻きついた部分の遺伝子が働かないように抑制している。
注
Sir2酵素は普段、必要ない遺伝子が働かないように頑張っている。
DNAが損傷した際、サーチュイン酵素はDNA修復を助ける★19
どこかでDNAが損傷するとSir2は駆り出されて損傷箇所に向かい、行った先のヒストンからアセチル基を取り除く。
これによってヒストンへの巻きつきを強めて、ほつれたDNAの端が不均等に切れることのないように(つまり2本鎖のうちの1本鎖だけが短くなることのないように)する。
また、これによってほかの修復タンパク質の応援も呼ぶ。
酵母が老化する原因(の1つ?)はSir2酵素が持ち場を離れてDNAの修復に向かい、結果として、(Sir2酵素が本来の役割である遺伝子調節ができず、)ゲノムが様々なかたちで不安定になること。
持ち場を離れることで、本来必要でない遺伝子が発現してしまい、細胞のアイデンティティが失われる。
例えば、筋肉であれば筋肉の遺伝子、肝臓であれば肝細胞になるための遺伝子が働く必要があるが、Sir2酵素が持ち場を離れると、遺伝子発現の調整ができず、本来必要でない遺伝子が働いてしまう。
これが老化であると著者は確信している。
Sir2酵素を活性化するとエピゲノムを安定化させ、老化を遠ざける。
酵母に余分なSIR2遺伝子を挿入したら、健康状態が向上し、寿命が延びる。★28。ことがわかっている。
糖分
酵母に与える糖類の量を減らすと、酵母が長く生きる。しかも、rDNA(リボソームDNA)が際立ってコンパクトに凝縮する。このおかげで、普通なら避けられないERC蓄積のペースが著しく遅れ、DNAの損傷も致命的なレベルにならずに済む。核小体が破裂するのも、生殖能力を失うのも、死を迎えるのも、すべて著しく遅くなる。
ここまでは酵母の話でした。
ここからマウス・ヒト
マウス・ヒトのサーチュイン
(ヒトのサーチュイン遺伝子は7種類ある)
マウスとヒトの細胞でもSIRT1酵素(哺乳類のサーチュイン)は持ち場から離れてDNAの修復を助けている★21
サーチュイン類はヒトのrDNA(リボソームDNA)を安定させている(2017★22
ヒトのrDNAの安定化を通してサーチュイン類が細胞の老化を防いでいる(2018★23。
7つあるサーチュイン酵素の1つSIRT1をつくれないようにした。するとマウスは、生後1か月を超えて生きることができなかった★25。
マウスを遺伝子操作してSIRT6酵素をつくれないようにしたところ、寿命が短くなるだけでなく、老化の典型的な徴候を短期間で現わすことを見出した★27
マウスではSIRT1遺伝子やSIRT6遺伝子のコピーを増やすと、健康状態が向上し、寿命が延びる。(酵母とSIRT2遺伝子挿入時と同じ)
I‐Ppo1遺伝子を導入したマウスの話。
このI‐Ppo1酵素は、ほんの数箇所DNAを傷付けるが、そのせいで遺伝子変異を生じさせたり、何かの細胞機能に悪影響を及ぼしたりしない。ゲノムの空き地部分(タンパク質をコードしている部分でない)に傷を付ける酵素。
これを導入したマウスは早く老化した。
⇒サーチュイン酵素がDNA修復に駆り出されて、本来の仕事をせず、エピゲノムが乱れてしまったため、早く老化したのだろうと考えられる。
マウス終わり
NADはサーチュイン酵素と共同で働く
SIRT1には二つのユニットがある。
ひとつのユニットは NAD 分子をつかむ。
もう一つのユニットは対象のタンパク質(ヒストンや FOXO3(転写因子)など) をつかむ。
その後、対象のタンパク質からアセチル基が除去される。除去されたアセチル基はNADの一部と結合し、ニコチンアミド(ビタミンB3)ができる。
ニコチンアミドは再利用されNADに戻る。
転写因子
転写因子(MSN2/DAF‐16/FOXO)
- MSN2(酵母)
- FOXO3(哺乳類)
- DAF-16(線虫)が活性化すると寿命が延びる。
サーチュインと共に、環境が厳しいときに細胞の生存率を高めるために働く★33。
哺乳類の場合、DAF‐16(線虫)に相当する遺伝子が4つある。
FOXO1、FOXO3、FOXO4、FOXO6。
酵母の転写因子
酵母の場合、この遺伝子はMSN2と呼ばれている。
DAF‐16と同様、MSN2がつくるタンパク質の仕事はいくつかの遺伝子のスイッチを入れることだ。そのスイッチがオンになると、酵母のストレス耐性が高まって細胞死から遠ざかる。
デヴィッドシンクレアらの発見によれば、カロリーを制限した餌を与えると、NAD(サーチュインが機能するうえで必要な物質)の再利用を促す遺伝子がMSN2タンパク質によって活性化する。結果的にそれが寿命の増加につながっている★36。
ヒトの転写因子
じつはいくつかの地域で、FOXO3の特定の変異体が住民のゲノムから発見されており、その地域は寿命と健康寿命がともに長いことで知られている。中国の紅河流域の住民などがそうだ★37。この変異体が体の防御システムを活性化させることで、環境が厳しいときだけでなく生涯を通して病気や老化を防いでいると考えられる。
因みに:
自分のゲノム解析をしてもらったことがあるなら、既知のFOXO3変異体をもっているかどうかを確認してみるといい★38。たとえば、rs2764264という位置の塩基が「T」ではなく「C」になっている配列は、長寿との相関が高いと指摘されている。その位置に2つの「C」をもっている場合、ほかの遺伝子の条件が同じなら、そしてあまりにひどい生活習慣にふけることがなければ、「C」と「T」が1つずつの人間よりも、あるいは「T」が2つの人間よりも、かなり長生きをする見込みが大きい。
カロリー制限(4章)
1935年、コーネル大学のクライヴ・マッケイ教授は、難消化性のセルロース(要はただの段ボール)を20%含む餌をラットに与えると、一般的な実験動物用の餌を食べたラットより大幅に長生きすることを示した。
その後80年にわたって数々の研究が行なわれ、栄養失調にならない程度にカロリーを制限すれば、あらゆる生物の長寿につながると繰り返し実証されてきた。
カロリー制限が健康と長寿にどう影響するかを検証するため、マウス(主にオスのマウス)を用いた研究も何百件と実施されている。
動物実験でサーチュインのプログラムを働かせる鍵は、カロリー制限を通して体を「ぎりぎりの状態」に保つことのようだ。
赤毛猿のカロリー制限
これまで知られていた最大寿命は40歳だったが、カロリー制限をした赤毛猿は20頭中6頭が40歳を超えた。人間でいう120歳。
しかも、カロリー制限食を一生続けなくてもそれだけの効果が現われた。一部のサルについては、30%のカロリー制限を始めたのが中年になってからだったのに、それでも十分だったのである★10
マウスのカロリー制限
生後19か月(人間にして60〜65歳相当)の段階でカロリー制限をスタートさせても、寿命を延ばす効果が確認されている。ただし、開始時期が早ければ早いほど延び幅も大きかった★11。
ラットのカロリー制限
2日おきに空腹な状態にするとそのラットは、普通に餌を食べた仲間より15~20%長く生きた★13。
ヒトのカロリー制限
1978年には、100歳以上の住民が多いことで知られる沖縄で、生体エネルギーを研究する香川靖雄が1つの発見をした。沖縄の児童の摂取する総カロリー量が、本土の児童の3分の2に満たなかったのである。当時の沖縄では成人の総カロリー量も少なく、本土の成人より約20%も低かった。沖縄の人々は長生きする。
月に5日だけカロリーを大幅に制限したら、IGF‐1(インスリン様成長因子‐1)の濃度が低下した。
IGF‐1値は長寿と密接に関連している。事実、その影響はあまりに強いので、個人の寿命を(じつに正確に)予測するのに使えると語る研究者がいる。
「SuperAgers スーパーエイジャー 老化は治療できる」の著者、ニール・バルジライだ。
満腹感が良くないかもしれない。
低カロリーだとしても、満腹になると健康効果をすべて得られない。
空腹になることが肝心。
空腹になると長寿ホルモンを分泌する脳内の遺伝子が作動しやすくなる。
肉について
動物性タンパク質にマイナス面のあることは、ほとんど議論の余地がない。動物性に片寄った食生活を送っていると、心血管系疾患による死亡率とがんの発症率が共に高まることが数々の研究で報告されている。加工した赤身肉はとくにいけない。ホットドッグやソーセージ、ハムにベーコン。素晴らしく美味であっても、恐ろしく発がん性が高い。
私たちが動物性タンパク質の代わりにもっと植物性タンパク質を摂れば、全死因死亡率が著しく下がることが複数の研究によって示されている★22。
“Association of Animal and Plant Protein Intake with All-Cause and Cause-Specific Mortality,” JAMA Internal Medicine 176, no. 10 (October 1, 2016): 1453‐63
mTOR(哺乳類ラパマイシン標的タンパク質)
mTOR酵素をあまり働かせないようにすると、
細胞は分裂に使うエネルギーを減らしてオートファジー(自食作用)に振り向ける。
タンパク質を一から新たに合成するのではなく、損傷したタンパク質や折りたたみ不全のタンパク質を再利用するようになる。
メチオニン含有量の少ない餌をマウスに与えると、とりわけmTOR抑制効果の高い。具体的には、体の防御機能を働かせ、手術中の臓器を低酸素症から守り、健康寿命を20%長くするという結果が確かめられている★24
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25523462
メチオニンに加え、アルギニンや、分岐鎖アミノ酸のロイシン、イソロイシン、バリンの3つもmTORを活性化する。
これらの摂取量を控えると、寿命が延びるという相関関係が確認されている★26(マウス)
人間を対象にした研究からは、分岐鎖アミノ酸の摂取量を減らせば、代謝機能の指標となる数値が大きく改善することもわかっている★27(ヒト)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4947548/
牛肉、鳥肉、豚肉、卵にはメチオニンが豊富に含まれる一方で、植物性タンパク質ではおしなべてメチオニンが少ない傾向にある。
同じことがアルギニンや、分岐鎖アミノ酸と呼ばれるロイシン、イソロイシン、バリンの3 つにもいえる。
- バリン、ロイシン、イソロイシンが分岐鎖アミノ酸
- 体は分岐鎖アミノ酸によってタンパク質が体に入ってきたことを知る
- そのセンサーがmTOR
- 分岐アミノ酸が入ってくるとmTORがそれを認識し筋肉合成を促す。
- 分岐アミノ酸が入ってこないと、それが、オートファジー、リサイクリングプロセスを起こす。
動画(英語)→What to Eat & When to Eat for Longevity | Lifespan with Dr. David Sinclair #2
ラパマイシン(薬剤)はTORを抑制、
長期にわたって大量に摂取すると腎臓を損なうことが分かっている。
運動
よく運動をする(1日最低30分のジョギングを週に5日行なうのに相当)人は、座りがちな生活をする人よりもテロメアが長く、その長さは、10歳近く若い人と同等だった★31
(サーチュインである)SIRT1酵素やSIRT6酵素はテロメアが伸びるのを助け、それをヒストンにきつく巻きつかせる働きをもつ。(参照なし)
運動について現時点で明確に言えること。
運動は数々の長寿遺伝子にプラスの調整をする。
たとえば
- テロメアが伸びる
- 細胞に酸素を運ぶ、新しい微細血管ができる
- ミトコンドリアの働きが高まって、化学エネルギーが増える
これらは加齢とともに機能が衰えるが、運動によって遺伝子のスイッチを入れ、若返らせてくれる。
サーチュイン活性化
Sir2酵素はレスベラトロールで活性化する。
レスベラトロールはワインに含まれる。酵素を活性化させるレスベラトロール量はワインを750-1000本飲まなければ摂取できないが。
Sir2酵素はカロリー制限でも活性化(or発現量が増える?)する。
NADはヒトの7種類のサーチュイン全ての活動を高める。(NADブースト)
NADは体内で500種あまりの酵素に利用されているた
十分な量のNADが存在しなければ、サーチュインはうまく仕事ができない。ヒストンからアセチル基も外せなければ、遺伝子も抑制できず、寿命も長くできない。
NAD濃度は年齢とともに低下する。
NMN等がNADになるまでの代謝経路
ナイアシン
↓(酵素 from 「NAMPT遺伝子」)
NAD
NR(ニコチン アミド リボシド)
↓
NMN(ニコチン アミド モノヌクレオチド)
↓
NAD
ナイアシンをNADに変換するための 酵素が酵母のPNC1遺伝子、これに相当するのは人間ではNAMPT遺伝子
AMPK活性化⇒NAD濃度上昇⇒サーチュインのような老化防御機構を始動させる
このような経路の老化研究も進んでいる。
以上、私の考え方を根底から変えた本の紹介でした。